この一冊は、どんな漫画か
鞄の肩紐を両手で握りしめて、シオが目を閉じる。頬に涙をためたまま、口だけが笑っている。本を読めない境遇の少年が、自分の望みを声にする大ゴマだった。
シオは耳長で、本を読めない側に置かれた少年。読める人が読みたいだけ読む話ではなく、手が届かない側から始まる話だと、あの大ゴマで分かる。願いとしてはこれ以上なく小さいのに、この世界ではまだ叶っていない。だから泣きながら笑うしかない。読み終えたあとも、同じ気持ちが自分の中に残っている。
本の扱い方が丁寧。本には歴史があって、作る人がいて、傷んだ一冊を直す人がいて、それを誰にでも届くように守る司書がいる。物語の背景として一行で済ませてもいいところを、この漫画は仕事の一つずつまで描く。おかげで、本が当たり前にそこにあるものじゃないと思い直した。棚から抜いて開くまでに、どれだけの人の手が入っているか。読む前と読んだあとで、手元の本の見え方が変わった。
1巻は、少年期の物語が一区切りついて、大きくなったシオが司書を目指す第一歩を踏み出すところで終わる。区切りとしてはきれいだから、ここで閉じることもできる。ただ、本の奥深さも、シオがそこから何を受け取るかも、まだ入口しか見せていない。閉じられるかどうかは、読んだ人による。
こよいの一言(眼鏡、外しました)
めったに褒めない編集長が、認めた一冊。
本を読めない側から始める主人公にしたのが、この漫画の一番良いところ。シオが何を読んで、どこまで変わるのか。そこは見届けたい。
選・文今宵の一冊 編集長 こよい
この一冊、誰かに教える
作品名とひとこと、リンクが入った状態で開きます。そのまま投稿しても、書き足しても。


