この一冊は、どんな漫画か
村を出たマリアが目を細めて言う。「行きましょう ゴブリンさん」。恐怖でつけた呼び名が、そのまま信頼の呼び方に変わっていた。
主人公が最初にやるのは、飲める水を探して火を起こすこと。魔法もスキルもないので、手に入るのは自分の体で取りに行ったものだけになる。何をどうやって確保したかが一つずつ描かれるから、この森で生き延びるとはどういうことかが読んでいて分かる。
戦闘も同じ精度で描かれる。相手のどこを見ているか、足をどこに置いたか、組んだときにどちらの腰が下にあるか。そこまで追ってあるので、空手がこの世界の相手にどう通用したのかを、読み終えたあとに自分の言葉で説明できる。強いから勝った、で済ませていない。
決め手は、マリアが目を細めて「行きましょう ゴブリンさん」と呼びかけるコマ。ゴブリンさん、は最初、怖いから距離を取るためについた呼び名だった。それが一度も言い換えられないまま、信頼して呼ぶ言葉に変わっている。名前を呼び直さないことで関係の変化を見せる、この一コマは上手い。
物語そのものは、1巻ではあまり前へ進まない。生き延びる手順と、この男が何者かを見せることに紙幅の大半を使っていて、読み終えた感触は長い導入部に近い。同行者を得て森の外へ歩き出したところで終わり、盛り上がるのはここからだと分かる引き方になっている。土台を作る巻だと思えば、その土台はしっかりしている。
この一冊、誰かに教える
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