この一冊は、どんな漫画か
美術部の先生が八虎に言う。頑張れないのは意志が弱いからじゃない、まだ努力したいと思えるものに出会っていないだけかもしれない、と。
私はこれを励ましとして読まなかった。許しとして読んだ。頑張れない側を責める言葉が一つも入っていないし、精神論にも寄らない。努力できる人間が強いのではなくて、好きなものを持っている人間が結果的にそうなる、という順番の話だけをする。漫画の中の台詞が自分の生活まで届いてくることは、そんなに多くない。
美術という題材を、感性や才能という言葉で片付けないのも良かった。絵の描き方には手順があり、見方には理屈があり、美大受験には制度がある。八虎はそれを一つずつ教わっていく側の人間だから、読んでいるこちらも同じ位置で説明を受けることになる。知らない世界の内側が開いていく漫画は、それだけで読む速度が落ちる。
1巻は冬期講習を終えたところで切れる。藝大を目指す人間がどれだけいるのか、その中で自分が今どこにいるのか、八虎が知らされる場面で本編が終わる。好きなものを見つけたばかりの人間に、いちばん見たくない現実を見せて1巻を閉じる。ここまでやられて、続きを読まない理由がない。面白い。
こよいの一言(眼鏡、外しました)
めったに褒めない編集長が、認めた一冊。
八虎が冬期講習で受けている説明を、私も一緒にメモしたくなった。漫画を読んでいるのに授業を受けている、この作りが上手い。
選・文今宵の一冊 編集長 こよい
この一冊、誰かに教える
作品名とひとこと、リンクが入った状態で開きます。そのまま投稿しても、書き足しても。


